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R.I.P.一人称

めずらしく母親から着信があり、何事かと思って応答すると、

「あんた携帯の番号変えたりしてないよね?」と訊いてきた。

電話番号変わっていたら、その電話は俺には繋がらないでしょう。と思ったが、ちょっと面白いので「うん、オレだよ、オレ。おれおれ。ラテでもないし、もっぱらブラック。俺は俺以外の誰でもないけど、ボクだった時期もあるオイラさ」などと言ってふざけてみたが全て無視され、何があったのかをこちらが聞きもしないのに一方的に説明されるに至った。

ようは、オレオレ的なもの未遂に遭ったようで、「俺」を騙ったメールが届いたが、どうも怪しいので電話で確認することにしたという。こういう事は本当に無くならないなぁ、とつくづく思いながらも、何か様子が違うなと感じた。というのも、ウチの母親はどちらかと言えばそういう詐欺的なものに翻弄されにくい性格であり、「オレだよオレオレ」などと電話が来ようものなら「面白いのであえて2、3分くらい話に乗っかってみる」タイプの人間である。だがそれも何年か前の話。寄る年波はなんとやら、か。

しかし待てよ、もしかしたらこれは母親本人ではないかもしれない。詐欺にあったと見せかけて詐欺行為を働く、新手の詐欺。失恋したと見せかけて略奪愛、にもよく似た心理的二重構造。親を騙った「おやおや詐欺」だ。こちらが疑いの言葉を投げつけても全て「おや?おやおや、、、おや?」でなし崩しにされるという、詐欺もとい迷惑行為。

 

まぁ普通に母ちゃんだった訳だが、電話をかけるほど気持ちが揺らいだ理由は、犯人からの2通目のメールにあった。

1通目は「俺です、ちょっと電話繋がらないのでメールです」母はこれを既読して無視(本物の俺に時間差でダメージ)

そして2通目、

「ねぇ、死んでないよね?」

と来たそうだ。

「ねぇ、死んでないよね?」である。これはもう、考えれば考えるほどよく出来ているキラーワードだ(死、だけに)。人を騙すのは良くない事だが、俺はこの言葉を思いついた犯人に拍手を送りたいほどだ。その魅力を解説しよう。

1. 疑問形であること。相手の様子を訊いているようで、自分の事を話さず、かつ自分に疑いがない(俺である事を)前提で、スタートを切っている。

2.無視しづらい話題。突然の死や、生命の緊急事態はいつでも誰にでも起こり得る。歳を取るほど人の死に慣れていくとはいえ、軽く無視できない話題だ。しかも、生存確認をされている、という日常ではあまり無い状況が、冷静な判断に揺さぶりをかける。

3.背景を想像させるような構造。はっきり言って、「死んでないよね?」と本人にメールで訊くなんて頭が悪すぎる。だがそんな行動を取ってしまうほどの「何かが」起こったのでは、と想像させる。しかもメールの1通目は「電話繋がらないので」である。犯人は、「リアリティは相手の頭の中で作らせるもの」という事を熟知している。

4.時間差で効いてくる。たとえこのメールを無視したとしても、3で説明した構造上、その後時間の経過に比例して、想像が膨れていく。

うーむ、思わず唸ってしまう。

実例では、母は昼前にメールを受け取り、正午に一度、本人確認する為の電話を掛けたが、俺はその電話に気付かなかった。そして、ブログ冒頭のやり取りは午後3時ごろのものだ。その3時間であらゆる事態が想定され、様々な可能性が浮上し、本当か嘘かの確信が持てなくなっていく。要するに母は「あんた携帯の番号変えたりしてないよね?」と電話してしまうほど、冷静さを欠いていたという事だ。面白がって、おやおや詐欺とかいって、悪い事をした(反省の色の発色悪し)。

 

オレオレ詐欺なんてもう、誰でも知っている。詐欺グループは次々に手口を変え、金を巻き上げ、捜査網から逃れ続ける。だが「オレオレ詐欺」自体は何も変わらない。より洗練された新しい手法が生まれれば、それまでの手法は用済みとなる。どれだけ自分に向いていたとしても、愛着があったとしても、関係ない。新手の詐欺師は言うだろう。「まだオレオレ言ってるんですか?そんなんじゃ稼げないっすよ笑」

一人称の曖昧さと子を持つ親の弱みが生んだ平成の詐欺ムーヴメントが、いま静かにその幕を閉じようとしている。絶大な力を持った者にも等しく終わりはやってくる。詐欺師であっても、いや、詐欺師であるからこそ「オレオレ」の、その言葉の響きに諸行無常を見出すのではないだろうか。

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