Skip to content →

Bサイドから見えてくること

はじめに断っておくと、俺は美容業界の回し者ではない。懇意にしている美容師がいる訳でもないし、働いているというオチもない。この注釈で嘘をついてしまうと今回のブログがまるで意味を成さない、というか真剣なメッセージみたいになってしまうので、どうか穿った読み方はせず「今日もおふざけになられてますね」といった距離感で読んでいただければ幸いである。


かつて「付き合ってはいけない3B」と呼ばれたバンドマン、バーテンダー、美容師は、一般民衆から次々と揚げ足を取られ、有る事無い事吹聴され、性的な弱みを握られるなどし、絶滅寸前まで追い込まれた。バーテンダーは個体数が落ち着き、難を逃れた感があるものの、美容師とバンドマンは各々の内部抗争が激化し、自らその繁栄の糸口を焼き払うような椅子取りゲームに終始した結果、まるで核戦争後に吹く春一番のような、殺伐さとわずかな希望が混在した特異なムードを醸成するに至り、現在もそれぞれの商いを続けている。俺はバンドマンの端くれであるにも関わらずブログを書いたりしている体たらくなので、いつ背後から「異端者だ!」と狙撃されてもおかしくない状況であり、夜もおちおち眠れない。

そういった極限の状況だからこそ、追い込まれた者同士分かり合える部分があるかもしれない、と思い立ったので、今日は全面的に美容師サイドに寄った完全なる偏見、もとい、思考実験をしてみる。

では、はじめ。

まず、人間どもは髪が伸びて気持ち悪い。勝手に伸びてくるのだ。日本の人口は減少傾向にあるとはいえ、現在およそ1億2659万人居るという。そして平均的な1日に伸びる髪の長さは0.3mmとの統計がある。単純計算だが日本全体で1日およそ3.8kmも髪が伸びているのだ。なんて距離だ。それに対し美容師総数(厚生省調べ)は49万6697人、つまり美容師は1日、1人当たり76mmの髪を切らなければ、あれ、全然短い、、なんだっけ、何しようとしてたんだっけ。しかも理容師も居るし、抜け毛もあるし、ハゲも、自分で切る人も、、あれ。。。

次に、客は自分の事がまるで分かっていない。気持ち悪い。プロだから何でも出来ると思っている節がある。自分のこだわりは曲げないくせに、髪質度外視できれいにパーマがかかると信じている。「すく」とだいたい解決すると思っている。金子みすゞには一定の理解を示すのに、その両手でお空を自由に飛ぼうとする。おかしな道理だ。その結果、粉砕骨折級の重傷を負ってもすべて「あそこの美容院ダメだわぁ」などと責任を押し付ける。おかしな道理なんだ、まったく。

「いくらウチとて、出来ることと出来ひんことがありますさかいに」この言葉を、一体どれだけの美容師が飲み込んできたことだろう。胸が痛む。しかし現代社会でそんなことを口に出せば「プロとしてあるまじき態度だ」「私たちあってのあなたの仕事でしょう。いいですか、仕事の対価としての」「髪切りガンマンめ」などとたちまち炎上。脱毛。逆流性食道炎。美容師達はおそらく「分相応」という刺青を背中に彫り、今日も粛々とブラック・サービスに徹しているのだろう。

さらに、客はいつまでも同じ茶番を繰り返している。いつまでも「全体的に短め」で失敗している。ツーブロックが誰にでも似合う髪型だと盲信している。個人ブログは今でこそ下火になってしまったが、その黎明期には様々な業種の「情報開示」があった。美容業界も例外ではなく、毒にも薬にもならないただの日記の隙間を縫うように、「全体的に短く、では意思疎通に失敗しやすいです」とか「”段”と”レイヤー”って、実は違う意味」みたいな有益な情報を発信している美容師、そう、気合の入ったB戦士達は確かに存在し、その奮闘の記録が今でもネット上に残っている。なぜそれを知ろうとしないのか。「眉にかかるくらい・すく・カリスマ・表参道」以外の語彙は無いのか。単身でツイスターゲームに興じるほどの滑稽さである。

それにしても、B戦士達は強靭な皮膚を持っている。中華料理屋でも食洗機を使う時代に、手洗いである。まったく頭が上がらない。それがアルパカならバリカンで刈り落としたって無言でかわいいものだが、人間どもに至っては、やれ「爪を立てるな」「湯が熱い」「目隠しがずれる」など、まるで貴族階級の甘えた戯言のような文句をわざわざ過去形にし、時間差でコメント。店の評価を落とすことのみに己の心血を注いでいる。ごく控えめに言って鬼畜の所業である。俺は皮膚が弱く、日々の食事の洗い物をしているだけで湿疹が出てくるので、Bウォーリアー達の生々しい傷跡を見るたび涙が出てくる。

極め付けに、美容師は安易にブログやエッセイのネタにされる。書く方は、恥ずかしいと思わないのだろうか。「美容院が苦手です」「こう見えて人見知りなんです」「趣味は人間観察です」という自己アピールは、この平成末期に於いて既視感しかない。そろそろ法で取り締まってもいい頃なのでは。「美容院が得意です」なんて文章を読んだ事がない。読んでもすごくつまらなさそうだ。みんなだいたい美容院で苦労してるものだ。俺も苦手だ。

そう、俺は、美容院も美容師も苦手だ。

こないだも「髪伸ばしてるので全体の調節してください」って言ったら初対面で「えー、なんで伸ばすんですかぁー(苦笑)?」って来るんだぜ?「一族のしきたりなので」とか返すべきだったのか?意思疎通不可能だろう。自分の彼氏と弟がロン毛でもうロン毛見飽きた、って俺に話すんだぜ?タフ過ぎない?

調節なのにザクザクいこうとするので(ヒント@ロン毛に見飽きている)、すかさず俺が「そそそうだそうだ、沢山すくと、短くなった髪が立ちやすくって、、、今までそれで失敗ばっかで、えへへ。まぁ伝えないのが悪いんですけどね、ははは。こないだ行った店で相談したらやっぱ”そういう髪質だ”って言われちゃいましたねぇ、あはは」と可能な限り歩み寄れば、「えーそんなことなさそうですけど(苦笑)ザクザク、、」国家間でももう少し譲歩してくれるケースなのでは?とりあえずその苦笑をやめてくれれば代金は支払おう。シャンプーものっすごいダルそうにやるから、ずっと首の力だけで頭持ち上げてたんだぜ俺。貴様の思考にレイヤーを入れんかいボケェ。なんなんだマジであのB。絶滅しろ。


という事が少なくないので、自分で髪を切る事が増えていき、セルフカット歴はのべ10年になり、それなりに知識が増えた俺は、切る側にとっては面倒くさい客に成りさがっているかもしれない。困ったものだ。

それでもやはり、1日中入れ替わり立ち替わり、何人もの意図を汲み取り、髪質に翻弄され、無理難題をリクエストされ、価格競争と回転率に追われる美容師達に、俺は敬意を表さずにはいられない。

件の美容師だが、会話の流れでセルフカットの旨を話したら苦笑したのは言うまでもない。

Published in Blog