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いたしばあさん

スーパーのレジ打ちをしている人は俺にとって常に気になる存在で、彼ら彼女らはときどき夢に出てきたりするくらいだ。何故かは分からないけれど。俺は固有名詞を憶えることが苦手なので、栗にいさんとか浅漬けギャルとか見た目や何となくのイメージで適当なあだ名を付けつつ個人を認識している。そんな中でも「いたしばあさん」だけはきっと誰が遭遇してもいたしばあさんなのではないかと思うのでそう言う話をします。

と言っても非常に単純な事で、いたしばあさんは会計の際

「2000円、お預かり致しぃ」

と言う。そしてもちろん

「155円、お返し致しぃ」

と釣りを渡す。

はじめ俺は面食らって小銭を落としたりしたものだが2回目以降、冷静に聞いているとお釣りを渡した後は

「ありがとうございys」

と言っている事がわかった。

俺は他のレジが空いていても、いたしばあさんに会計してもらうようになっていった。

ものすごく良い訳じゃない。4回目くらいからは面白くも何ともない。でもこの、頑なに「ます」を避ける姿勢、いや、避けているのではないかもしれないが、発せられるはずの「ます」が発せられなかった事による俺の中の聞かれたはずの「ます」が静かに堆積し、唸りを上げる感じはどうだろう。基本、ポイントカードは作らないようにしているが「いたしカード」だったら是非とも発行してほしいと思ったくらいである。

いたしばあさんは勤務時間帯を変えたのかスーパーを辞めたのか、ある時からすっかり見かけなってしまった。ときどき夢の中に登場しては「100万円お預かり致しぃ」と微笑ましい冗談を披露してくれる。

「ます」に異様なアクセントを付ける「ます店長」とかが現れない限り俺の心は落ち着かないままだ。だって気持ち悪いじゃん「致しぃ」で切るの普通に。

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