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「”楽しいけど面白くない”みたいな」

初めての方への説明です。
これは僕がとある仕事の報酬で手に入れたスターバックスのカード15000円チャージ済みを、「知らない人に会ってスタバを奢って自分の知らない話をひたすら聞く」だけの為に使う企画で、その取材をまとめたブログです。今回はその第1回です。雰囲気重視なので録音無しの記憶のみ、読み物としての流れや個人の特定に繋がる情報、万一相手の知り合いが見た時にまずい話題は避けた為、実際の会話から大部分を割愛させていただきました。劇的な話やえげつない話は出て来ません。
では何の為にこんなことをするのかというと、全然わかりません。そこが良いのですが、それについては最後に書きましたので、とりあえず、どうぞ。


「そんで、”君がもしお嫁さんになってくれるなら僕が所有してるラクダ100頭、あげちゃってもいいけど〜”
っていう、サハラジョークを受けまして」

「なんすかそれ、マジではない感じの?」

「雰囲気的には冗談めかしてましたね〜、そしたらこう、だんだんと地元の人しか分からないような路地に誘導される訳ですよ。薄暗くて人も居ないような。そんでキスされそうになって」

「おや?」

「で、私は全然そんな気無かったから”ノーノー!ジャパニーズガール、ノーノー”みたいに、やんわーりかわしつつ。そしたら”モロッコではこれが普通だよ”とか言うんですけどモロッコってイスラム圏じゃないですか」

「女性は顔までベールに覆われているイメージですね」

「まさにそうで。気軽に触ったりしないんですよ。だから絶対嘘で、でもけっこうグイグイくるから、その気は無いよってハッキリ意思表示したら、そこで置いてかれて笑」

「うわ最悪だ 笑」


夜の新宿、と言ってもあの都会の喧騒渦巻くSINJUKUとはうって変わって、JRの東南口、高島屋周辺は驚くほど閑静である。電飾が明滅するような広告や重低音を効かせた音楽も無く、ヘッドホンをつけた会社員や端末の液晶を見せ合う学生が、広めの間隔で配置されたベンチに腰掛けながら5月の夜風を浴びていた。

指定されたスタバは平日の21時半にもかかわらず満席だったので、テイクアウトに。注文時、「スターバックスラテのトールください」の「トー」こそ声が裏返ってしまったがスタバの恥はかき捨て、Aさん(仮名)ご所望のホワイトモカと、1人目の記念としてサンドイッチも追加し、ついでに自分の分も追加し、魔法のギフトカードで支払いを済ませ、僕は入店時よりも若干早めの歩行で店を出た。

濃いデニムのロングスカートと短めの白いブラウスはミディアムボブの黒髪に良く合っており、つま先の長すぎないダークブルーのパンプスには傷ひとつなく、2年遅れての新卒社会人という背景を抜きにしても、まっすぐで清冽な印象があった。背筋はすらりと伸び、靴音には確かな意思が感じられた。見ていてとても清々しいので、こちらも真似してすらりと歩こうとしたが、あいにく僕は猫背だった。
植栽を囲う円形のベンチに腰掛け、まずはコーヒーで乾杯し、サンドイッチを食べた。僕が食べたエビとアボカドのサンドイッチはパンが黒く、なぜ黒いのかを考えたり原材料を確認する余裕もないほど緊張していたのだが、味はとても良かった。Aさんはパンが白いサンドイッチをペロリと平らげた。昼から何も食べていなかったらしい。

Aさんはこの日仕事終わりでひとりカラオケをし、何故かパック料金が適応されず不当に高い金額を支払う羽目になり、むかついたので、そのあと友達を飲みに誘ったが振られ、悲しみにくれていた際、変なツイートを見かけた事を思い出し、僕を呼んだとのこと。僕が家で天井を見つめていた50分前の話だ。

物心つく前に父親を亡くしているという共通点があり、「”あ、そっか。大変だったね”とか言われても正直わかんないんだよね〜」という”物心つく前の身内の不幸あるある”や、その後の女性メインの家庭の暮らしぶりなどに不思議な共感を覚え、初対面とは思えないほど話が弾んだ。

彼女の場合は中高と女子校に通ったとのことで、女社会のど真ん中を生きてきたと言える。

「でも当時、好きで付き合った人と別れた時にツラすぎて、あまりにツラくて。男の人がどうこうって言うより”もう二度と別れというものを味わいたくない”みたいになって、”でも恋人じゃなくて、友達だったら恋人との別れみたいなの無くない?”ってなりー、これ、女の子同士あるかー?と思って」

「そこで同性に行くんですね」

「なんか気楽さとかも全然違うし楽しいんですよ女同士は。私は男の人が好きですけど、もしかしてバイになれるかな、みたいな。で、とりあえずマッチングアプリに登録して」

「マッチングアプリ!ほえー!あー、でもあるでしょうね」

「すぐ連絡来るんですよ、すごいですよ」

「行動が早い。で、その人と?」

「いや、ダメでした。外国の人が多いんですけど、もういきなり”あなたレズ?わたしとする?”みたいなノリで。こっちは精神的なものを求めているが故に余計に引く、みたいな。すぐアプリをアンインストールして」

「すぐトライと言えば聞こえは良いけど、それだと普通のヤリ目的のマッチングと変わんないですもんね」

「そーなんですよね、私には無理でしたねー」

「僕もそっち方向を想像した事ありますけど、やっぱり女性が好きですねぇ。でも、なんでこういう事考えるんでしょうね」

「不思議ですよね、でも私の場合は女社会で育ったとか抜きに、なんか”このままじゃいけないな”みたいな気持ちもあったと思いますね」

「このままじゃいけない。うんうん」

「さっきのモロッコも、まぁ旅行ですけど、今行っとかないと長期で海外とか行けないだろうなぁと思って大学卒業してすぐ行ったし、こう、興味があったらやってみないと、っていうか。大学自体あんまり楽しくなかったんで余計ですね」

「そうなんですか、てっきり謳歌してた人と思ってました」

「なんか別に楽しかったのか?うん?あー、いや、なんか”楽しいけど面白くない”みたいな。このままみんな同じように日々が流れていって、自分が年老いていくっていうのが嫌すぎる、というか」

「わかります。どれだけ楽しくて快適でもそれが同じように続く事にある種の恐怖みたいなものは憶えます。あぁ、たしかにそれは”楽しいけど面白くない”状態ですね」

「そこからどうしても出たいっていう気持ちが、他の色んなものに変わるんでしょうかね。このスタバ奢られるのも、なんか面白そうだなぁ〜みたいなノリで」

「最高ですね。そう聞くと、Aさんが2年遅れて社会人っていうのもなんか頷けますね。ずばり聞きますけど社会人は楽しいですか?」

「楽しいです。いま超楽しいし面白いです」

「おぉ〜すばらしい」

「なんか周りの友達とかネットの発言とか見てたら絶対やばい、とか思ってて正直結構鬱だったんですけど、普通に配属もいい所に決まって、仕事も面白くて、楽しいです」

「なんか久しぶりに気持ちのいいセリフをひと息に聞いた気がしますね」

「私もちょっとびっくりで。でもフリーター期間はラウンジ系の水商売のバイトとか、そこのお客さんも店の人間関係とかも最悪で死んでたんで、やっと私の時代来たー!みたいな笑」

「レズ願望からのモロッコでラクダ経由しての、今社会人サイコー、で知らん人にスタバ奢ってもらって笑」

「はい笑」

「いやぁ、Aさんいいなあ。僕もなんかブラック企業の体験談とか、よく見るしすごく為になるんですけど、こういう話も聞いてないと、うんざりしますからね。なんかこう普通に楽しい、ハッピー、みたいな話をイケイケの雑誌特集以外で聞きたかった所だったんでありがとうございます」

「イケイケの笑。こちらこそスタバ奢ってもらって話も聞いてもらって超ハッピーですありがとうございます」

「どうしても人よりツラい経験とか、ヤバい世界の話の方が人の興味を引くじゃないですか。でもこういう話もすごく大事だと思うんですよね。わざわざネットで発信しても”自慢かよ””普通やん”ってなるし、特に自分から発信する必要が無いっていうか」

「私のTwitterも鍵垢ですからね〜特に発信する気はないですね」

「でも確実に僕の知らない世界の話だし、すごく面白いんですよね。少なくとも僕は。いやほんと1人目がAさんで良かったですよ。あ、すいません僕の話で」

「私も来るまで不安で、ネイサンさんがつまんないおじさんとかだったらすぐ逃げようと思ってたんで」

「いや、そのくらいの警戒は必要です」

「あと、私はTwitterでさらっと見ただけですけど、なんかネイサンさんは独自の世界観がすごいじゃないですか。で、それでグイグイ来られるのもめんどいなぁと思ってたんで、それも警戒してましたね」

「それも当然ですね。これはちゃんと説明したいんですけど、僕は普段は本当に聞き役ですから。人の話聞いてる方が楽しいんですよ。Twitterとかブログとか音楽はやっぱり自己表現の場なんで、世界観グイグイ打ち出していくしかないんですけど、この通りですから」

「たしかにそうですよね。いや、ほんとにこんなに話聞いてくれるんかい!ってなりましたもん。スタバも奢られて笑」

「奢らせていただいて笑」

と、話している時にAさんの目が僕の後方に焦点を合わせた。
振り返ると10メートルぐらい離れた道で男がどこで入手したのか”道路工事用のカラーコーンにつけるトラ目の棒”を振り回しながら歩いていた。酔っ払っているのか不機嫌なのか、はたまたその両方か、5秒に1回のペースで棒を地面に打ちつけている。チラ、と目が合った気がしたがこちらに近づいて来る様子は無かった。ふと、ここが新宿である事を思い出した。ここは閑静だが北の方角には歌舞伎町があり、その空は様々な色の明かりで照らされている。耳を澄ませば喧騒の反響のようなものも聴こえる。

時計を見るともう0時前だったので解散。Twitterでのフォローは無し、連絡もこちらからしない、ブログも個人が特定されないよう脚色する、事を約束して別れた。

「あとで書かれてるの読んでニヤニヤします」と言って、Aさんは2時間半前と同じ清々しさを纏いながら、さらに軽快な靴音を響かせ、新宿の街へと消えていった。

別れ際「じゃぁ、また」と、つい癖で言ってしまった。


以上です。

実際はけっこうオープンな下ネタ話もしたし、家族ネタもキャラが立っていて素晴らしかったんですが、冒頭の理由から割愛しました。「お母さんの部屋のタンスの電マの話」はやっぱ書けないわめっちゃ書きたいけど。ごめんAさん。あなたはこれから社会人生活を謳歌するのだから、僕は細心の注意を払ったよ。

話している途中、「いったい何をしてるんだ?」という自問が何度も湧いたのですが、まぁそれも当然で、だって僕が奢って話聞いて何の後腐れもなく帰るんですからね。意味がわからない。

でも不思議な事に、今まで体験した事の無い種類のドーパミン風な何かが出ていて、帰りの電車では謎の多幸感に包まれていた訳です。当日の気候含めロケーションが良かったのもあるかもしれませんが、それでも終始お互い「なんか楽しいですね〜何ですかね〜これ」と言った感じで、不思議な体験でした。
これだけは言えます。
わからない事、自分の理解や計算を超えてる事を実際にやるのは、めちゃくちゃ面白い。

僕が心配なのは「この感動をミニサイズであれ上手く伝えられているか」という事と、

「スタバのカードに自腹で課金し始めるんじゃないか」という事です。マジでこわいです。

ありがとうございました。とりあえずあと13000円くらいあります。

僕のこと知らない人、知らない話聞かせてください。では。

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