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中村の顔

  • 2019年12月19日
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先日、3人のNathan復活ライブをした下北沢CLUB251はわりと広めの楽屋があって、そこではご飯を食べたりギターをぺしぺし弾いたり着替えたり出演者がそれぞれの準備をする。

開場時間も迫る頃、それまで談笑していた女性出演者の2人がおもむろに立ち上がり
「さて、顔でもつくるか」と呟いた。
ちょうど鏡も2つあって、「では一緒につくろうか」「つくろうぞ」と、その流れるやりとりはまるで手練れの剣客が突然の襲来を受けた茶屋の為に一時的に共闘するような自然さがあった。

2人は顔をつくりながら色んなことを喋っていて、僕が気になったのは
「顔をつくり続けることで元の顔面が弱くなる。男の者はよいよな、元の顔でいても平気だし弱まることもなかろう」というもので、
「いや元の顔でいたらいいじゃないですか」と言いかけたが他の人の別の話題に遮られた。よかった。おそらくこれは余計なひとことだったはず。

その日の前日にはKISSが最後の来日公演をしていた。僕は顔面白塗りの彼らが「そうそうそうそう!基礎が弱まるっていうかね!つくればつくるほど乗りが悪くなって結果的に作りづらくなんのまじウケる」と言っている姿を想像した。

メイク、化粧は僕もしたことがある。髪が長かったりヒゲが無かったりするのと、服装やシチュエーションによっては女性に間違えられることもあるにはあるので、わりとイケんじゃないか、やってみる?という女友達との悪ノリで女装メイクをした。こういうことはさして珍しい遊びではないと思う。すごく楽しかった。

僕の顔面の問題は「骨格が完全にオス」な点で、普段から歯ごたえのある食品を好んで摂取していることもあり、顎の発達ぶりは一般女性のそれとはかけ離れていた。加えて眉も凛々しかった。太眉がにわかに流行し出した時期ではあったし、ありのままの自分で勝負したい、という強い意思が僕にはあった。施術者は顎の発達ぶりとの相乗効果を懸念し「眉、細くみせようね」ということになり、発達した顎には「かわいいクッションをあてがって隠す」というきわめて原始的な手法が採られた。

そうして何枚も写真を撮り、ちがうもっとこう、かわいい、いいね、色っぽく、おーー!!とやってる内に何枚かやばいのが撮れたのでゲラゲラと笑い、メイク落としのオイルをもらって、すべてを拭き取ると何とも言えない爽快感、開放感があった。ただいまぁ…!という感じだった。
ほぼ女系の家庭で育っているのでその苦労を知らないわけでは無いのだが、なんともまぁ毎日大変だなぁ、と思った。

女装はそこで終わらなかった。写真を指して、
「これを架空の人物にしよう」

と誰かが、いや、自分の口がそう言った。

ちょうどFacebookが流行り始めたころだったので、悪ノリとアイデアは一気に加速し、全員で知恵を出し合う。女子大生、いや専門の方がリアル、”投稿はちょっとバカっぽいんだけど実は腹黒いとみせかけて根本的に頭悪い”にしよう、誕生日、血液型、etc..を入念に設定した。
そうして”中村さき”という架空の人物が誕生した。
(もちろん現在は抹消してあるし念のためここでは仮名に変えました。こんな雰囲気の名前。漢字のチョイスまで考えるのすごく楽しかった…)

Facebookのアカウントを複数人で操作できるようにして、毎日投稿する。いちおう彼氏が居る設定なので記念日だとか海がきれいだとかごはんがおいしいだとか、およそ現在にまで連綿と続く”スタンダードなくだらない投稿”や”くだらないシェア”をせっせと続けた。中村はまったく違和感無く我々の世界に馴染んでいった。

それでもある程度経つとネタも切れ、飽きも相まってだんだんと放置ぎみになり、しばらく存在を忘れていた。
するとある時、友達申請がきた。知らない男性だった。

端的に言うと中村を下心満載で好きになったようで、歳も近く、メッセージ交わしてみた感じではたぶんめちゃくちゃやりたかったんじゃなかろうかと推察する。
急展開に、チーム中村は再燃した。コメント欄で親交を深める。投稿には必ずいいねがつく。最初の写真の奇跡を再現するのが困難なので、手元の写真をメインに攻めていく。残念ながら僕の手は男のそれだったので却下され、女の子が別撮りした。決して焦るな、逆サイド、、スルーパス、、、

何がゴールで何が勝利なのかは不明だが、僕はだんだん怖くなってきた。中村の写真は僕からみたら完全に僕なのだ。中村は文字で会話し、自己顕示欲に根ざす承認欲求をこれでもかと発散し、男に言い寄られている。でもかわいいクッションの下には発達した顎が隠されている。あまりに隠し事が多い。このままいくと会うことになる。会うのはいい。というか会ってネタバラシみたいに出来るかなぁと妄想したりもした。

でも、それは面白いだろうか。たぶん、あんまり面白くはない。しかもチーム中村の最初の目的は「面白い」ではあったけど「他人を貶めること」では決して無かったはずだ。いやまぁこいつめちゃくちゃキモいなとかは思ってたけどね。まじでキモかったぞ。でも貶めることになるから。
だからちょっと精神が不安定になったテイで中村をフェードアウトさせ、アカウントも抹消した。

架空のもの、ネットで成立する面白さと現実世界のギャップ、その距離感やモラルの意識は毎日更新されている。そのギャップを埋められなかったり、線引きを間違えたりするととんでもない目に遭うのを、僕らはなぜか知っている。虚構の自分が自分を侵食していく恐ろしさを、僕らはなぜか知っている。だからやらない。

「顔をつくり続けることで元の顔面が弱くなる。男の人はよいよな」

いまや男も女も「顔をつくって」いる。それぞれの中村を日々操って生きている。

 

ら、ライブっていいよね〜。

現場からは以上です。

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