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切手を舐めると手紙が届く

母さん

 

ご無沙汰しています。

元気ですか。僕は元気です。

 

ここ東京では気持ちのいい晴天が続いています。空は高く日差しは細長く空気はひんやりして、木を打ち鳴らせばその音がどこまでも飛んでいきそうです。

街を行き交う人たちは皆それぞれの支度を済ませ、来るべき年の暮れに向かいその姿勢を整えたようです。僕はこの、早まった正月のような11月が大好きです。

突然ですが母さん、僕は依存症です。

 

自分の気持ちをしずかに観察し、コントロールする術は心得ているつもりでした。じっさい、酒にもタバコにもセックスにも依存していません。これらをやめるのも始めるのも、そこに苦痛や後ろめたさは伴いません。幸せな人生です。

けれど、

この写真を見てください。

 

 

「飛騨娘(ひだむすめ)」です。

 

第一製菓株式会社が製造している、落花生を甘くし固めた、ただそれだけの豆菓子です。

僕はさっき、これを買いに近所のスーパーへ行ってきました。行ってきたのは確かです。けれどその途中の記憶がありません。レジのおばさんの顔も、自分が財布から幾ら出したのかも、お釣りが幾らだったのかも、まるで思い出せないのです。ただ、息が上がっているので、結構な速度で走ったのでしょう。

 

 

よく見てください。個別包装の開け方が書いてあります。この通りに開けないと本来の味わいが損なわれるのだと僕はかたく信じています。こんな些細な事に気を遣ってくれるなんて見上げた親切心だと思いませんか。え思わない?どういった了見ですかなぜ思わないんですかあなたは一体どんな育ち方をしてきたんですか?まったく親の顔がみてみたいですよ、そうですよ。

 

 

 

なぜだか手が震えてしまって何度も撮り直しました。その間に2、3個どこかへ消えてしまったんですが、どこへいったか母さん知りませんか?

コーヒーを準備している間、笑ってしまうんですよ。面白い事なんて何もないのに。

飛騨娘をかじった口の中に、すこし薄めに淹れたコーヒーを流し込んだその瞬間、僕は宇宙とは何なのかを知ることが出来ました。どうもありがとうございます。どうもありがとうございます。

 

最近は海外からの旅行者が増えました。道を訊かれることも多く、僕の英語力ではほとんど会話にならないけど、言葉を持たない音楽と同じように身振り手振りだけでも彼らの役に立つことは出来るんだなぁと、日々感じています。

そんな道案内のあと僕はきまってHI・DA・MU・SU・MEという日本語を教え、その場を立ち去る事にしています。

「それはどういう意味?」と聞かれ、

「楽して金が儲かるマントラだ」と答えると、彼らは我が意を得たりと「ヒダムスメ」を絶叫し、故郷のダンスを踊ります。

 

 

 

母さん、僕は依存症です。

 

僕は弱い人間です。

自立しているつもりが、自分の手足に依存しているのです。

 

母さん、僕を産んでくれてありがとう。

近所のスーパーに行ってきます。

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