Skip to content →

男は敷居を跨げば七人の敵あり

そのおっさんは、腹をさすりながら俺に話しかける。

 

「いやぁ寒いね、師走だね、うん」

 

「そうっすね、朝はもうキツいっすね」

 

「君なんてガリガリだから大変だね。まぁ俺もね、こんなビール腹しちゃいるけどさ、寒いもんは寒いよね」

 

「下、タイツ履かなきゃ無理っすね、ほんと」

 

「あ、○ートテック、俺も着てるよ」

 

「そうですそれです、あれ薄いのにあったかいって不思議な」

 

「違う違う、ミートテック。俺ミートテック。着てるから、天然の、ほらミートテック」もういちど腹をさする。

 

 

 

 

江戸時代初期。真夜中の街道にて辻斬りに遭遇すればきっと、こんな気持ちになるのではないか。なるのではないか、などと悠長なことを考えている俺は完全に丸腰の冷え性低血圧 兼ギターボーカルで、その悠長さゆえ、既に一太刀浴びているわけだ。大腿からの出血がひどい。戦いとは何もお互いの準備が整った段階でスタートするものではないのだ。俺のミートテック(極薄極寒)は二重にふるえた。

 

 

 

「ミートテック」

 

「そうそうつまんないでしょ、いいんだよ”つまんない”って言っても」

 

「え。いや、まあ、、つまんないですねえ」

 

「じゃあパイプユニッシュいらないね、つまんない、んだったら、パイプユニッシュ」

 

 

 

辻斬りは何故人を襲うのか。その理由の一つに「こないだ買った刀の試し斬りがしてみたい」という、ごくシンプルな動機がある。がしかし俺の目の前でメガネを拭き始めたこの男が持っている刀は見るからに中古で、むかぁしから使ってる錆びっ錆びのやつで、「どうせ斬られるんだったら新しいのがよかった」という俺のいたいけな気持ちをよそにもう一太刀浴びせてきたわけだ。けっこう早いスパンで。

しかも意外と戦略的な二撃目である。いちど「”つまんない”って言っていいんだよ」と言われた事で俺はすっかり安心した。もうほんとすっかり安心した。「あ、これでお家に帰れる」と思った。暗に「不意打ちをしたのは本当すまんかった、代わりに一発殴ってもいいよ」と言われたんだとすら思った。刀も振り上げられていないし、いい奴だな、ってね。それがご覧よ下方向からの斬り上げでボクのあばら骨にきれいな縦のラインが追加されたよ。これってデザイン的にどうなの?

こいつの悪い癖は必ず2回以上斬りつける所だ。テックテック、ユニッシュユニッシュ、マイクテストマイクテスト、、、ぐりぐりぐりぐりやりやがってえええ。

 

 

 

 

「いやぁつまんない上に笑いも 漏れない わけですね、漏れない」

 

 

 

精一杯の返し刀である。

 

 

 

「お、おーいいねぇその調子だよ君」

 

 

おっさんの嫁とおぼしき女がやってきた。おっさんの嫁とおぼしき目つきでおっさんを一瞥し

 

「すいません、もー、すぐベラベラ喋っちゃうんでこの人、もーごめんなさいねぇ」

 

「このお兄ちゃん中々やるよ、俺は気に入ったね」

 

「何がやるのよ、もーすいません」

 

「いーやいや全然、楽しかったっすよ」

 

 

「ほら行きますよ、もーこんな爽やかなジャニーズ系なんだから汚しちゃ悪いでしょ」

 

「いやいやそんなんじゃねーっすよ、ジャネーズ系っすよ」

 

 

えっ。

 

 

 

 

えっ。

 

 

 

 

「ふェ」

 

「ふェ」

 

刹那。おっさん夫妻の首は弾け飛び、血をしゅーしゅー吹き出し手足をバタバタさせたのち、ふたりは直立したまま絶命した。

 

 

その光景は人里離れた山陰に茂る、季節外れの彼岸花を思わせた。

 

 

 

 

俺は空色に輝くライトセーバーのスイッチをOFFり、家賃5万のアパートへと帰宅した。

 

Published in Blog